Destructured
Yutaka Yamauchi

HISTORY MAKERS: 価値創造人材育成プロジェクト

京都大学と京都市立芸術大学と京都工芸繊維大学の連合の提案が、文部科学省の価値創造人材育成拠点形成事業に採択されました。今後4.5年間ほどで価値創造人材を育成するプログラムを立ち上げます。社会人を対象にした、(当初は)無償のプログラムです。

コンセプトは [ HISTORY MAKERS ] です。歴史をつくるイノベーターの育成を目指します。既存の創造性実践においては、過去のしがらみに囚われない新奇なアイデアや未来像を求めますが、それではなぜ今の時代にそのアイデアが必然性があるのかが問われません。我々はむしろ過去に目を向け、社会の変化を理解し、新しい時代を表現していくことが必要だと考えています。また、潜在ニーズを満たすと人々が喜んで、最終的にお金を払ってくれるというだけでは、時代を画すようなイノベーションは生まれません。社会が変化するなかで人々が自分にいらだちを感じているとき、新しい世界を表現することで、人々にその世界に一歩踏み入れるトラウマ的な体験を生み出す必要があります。これが歴史をつくるということの意味です。

これが私なりの「アート思考」に対する回答です。アートとはまさに歴史をつくる行為だということです。ビジネスがアートを神秘化してインスピレーションを得ようというのは、ビジネスがアートを飼いならそうとしているだけです。天才的主体の内面から創造性が湧き出るとか、人々を自由にして創造性を解放するというような考え方は、創造性が義務(imperative)となった現在の状況を見誤っています。天才による英雄的行為ではなく、日々の小さな差異を感じ取り、微妙な読み替えをしていく活動です。さらに、アートは既存の秩序を宙吊りにする社会批判であり、新しい時代を表現するものだと思います。

この構想は、2012年からデザインスクールを運営する中で、デザイン思考をはじめとした既存の創造性の枠組みに限界を感じ、7年ほど前から練り上げてきたものです。闘争としてのサービスにおいて人間〈脱〉中心設計のサービスデザインを提唱し、潜在ニーズを満たすデザインからむしろトラウマを導入するような欲望のデザインの重要性を議論し、従来のデザインの限界である主客分離を乗り超えるためのアセンブラージュの視座を展開し、資本主義の矛盾を積極的に捉えかえしエステティックを再導入するデザインを提唱してきましたが、何か変なこと言っているぐらいにしか受け取られませんでした。自分では筋の通った当然のことを言ってきたつもりですが、とことん自分には「デザイン」の才能がないと思います。

多くの先達を見てきて、自分は大型予算には手を出さないと決めていました。自分の研究をしたいし、トップジャーナルに論文を出すことが仕事であって、大きなプロジェクトを運営することや一般向けの本を書くことは、そのための障害でしかないと思っていました。それでもやろうと思ったのは、周りから期待いただいたからだけではなく、本当に重要なことをやっているなら閉じ籠っていてはいけないと素直に思ったからです。簡単に採択されるとは思っていませんでしたので、意外に高く評価していただいたことが信じられません。

それも強力なドリームチームのおかげです。京大デザインスクールに参加していたメンバーに加えて、美術史、美学などの専門家も参加されます。その他、様々な実務家や企業にも参加いただきます。ありえないぐらい素晴しい人々に参加いただきますが、ここでお名前を挙げるととんでもなく長くなるので別の形でご紹介したいと思います(後でビックリさせたいと思います)。加えて、京都市、京都府、京都商工会議所、京都工業会、京都経済同友会など、総合的な体制を構築しました。

この申請の準備を始めたころから時間に追われ、このブログも止まっていましたが、これからがんばって発信していきたいと思います。