このワークショップの目的は、EGOS (European Group for Organizational Studies)というヨーロッパ中心のグローバルな学会と、東アジアの研究者コミュニティを橋渡しするというものでした。特に、Organization Studiesというジャーナルをターゲットにしているような、つまりヨーロッパ的な研究をしている比較的ジュニアな研究者を支援したいという思いがありました。ペーパーはできるだけ東アジアのものを優先して選択しつつ、欧米から一定数の方に来てもらうバランスを考えました。50名程度かなと思って不安に始めたところ、結局259件の申込があり、100ちょっと採択し、最終的には90件の発表、そして170名の参加者を得ることができました。
このワークショップをやるにあたって注意してきたのは、欧米の研究者と日本・東アジアの研究者が「対等」に運営するということです。もちろんジャーナルOrganization Studiesは日本人研究者にとってターゲットとなりうるものですが、欧米の研究者が日本語の学会に参加し雑誌に投稿するということはありませんので、対称的であるということはありえません。あくまで、研究者として対等な関係を作るということです。EGOSは国際的な組織ですのでアジア人研究者は半人前のメンバであるということはありえませんし、また研究コミュニティはグローバルですので共通言語の英語で書くということは当然のことです(日本語で論文を書くことを批判しているのではなく、英語で書いたからと言って一方的ではないという意味です)。
著名な欧米の研究者と共著者になって論文が採択される確率を上げようとか、学会のコアなネットワークに入り込んで裏情報を掴もうとか、エディターと仲良くなって投稿論文をよくはからってもらおうというような研究者はいないと思いますが、一方的に学ぼうとか、アドバイスをもらおうということは少しはあるかもしれません。しかし当然ながら研究者は、能力や知識で劣る(と自身を定義するような)研究者を同僚として認めることもなければ、一緒にいい研究をしたいと思うことはありません。自分の研究を使ってくれるクライアントという関係はあるかもしれませんが。むしろ、一人の研究者として対等に独自の意見を言えて、自分を超えるような部分がある研究者でないと、真剣に議論し交流することはないのではないでしょうか(教員と学生の関係も同じです)。3年前のサバティカルでこのことを感じ、常に意識してきました。
EGOSやOSのワークショップを東アジアに持ってくるにあたって、欧米の研究を輸入しようとか、東アジアの研究者の一方的な学びの場にしようという主旨ではないということです。EGOSとOSの名前が入ったワークショップで、かつOSのエディターが投稿する著者を支援するという目的ですので、キーノートはEGOS側で揃えましたが、Robert Chiaはシンガポール出身、Mollie Painterは南アフリカ出身というバックグラウンドを意識しました。今回協力いただいたEGOS側の研究者は以上のことを誰よりも理解し、我々と対等な関係を求めている方々です(ところで、彼らはポストコロニアルな言説に敏感です)。だからこそ今回彼らと一緒にこのワークショップをやる決心をしました。彼らの多くはメンターをやってくれましたが、同時に東アジアの研究者から何かを学ぼうという姿勢が見られました。
以上の考えが参加者に伝わっていなければ、形としてうまく運営できていても、ワークショップとして成功することはなかったのではないかと思います。ということを、日本語で書いた方がいいと思いました。